プレス金型設計の基礎|設計工程と材料選定のポイント

ガイドポストを備えた精密プレス金型のダイセット

プレス金型設計は、製品の寸法精度だけでなく、材料歩留まり、生産速度、保全のしやすさまで左右します。試作で図面どおりの部品ができても、その品質を量産で維持できるとは限りません。材料のばらつきや金型の摩耗を見込み、安定して加工できる条件を設計段階で整えておくことが大切です。

この記事では、プレス金型の基本構造と種類から、図面検討、工程設計、材料選定、試作検証、保全までを順に解説します。金型の製作を依頼する際や、既存工程を見直す際に確認しておきたいポイントをまとめました。

金型設計が品質と生産性に与える影響

精密プレス加工では、金型をどう設計するかによって、量産時の品質とコストが大きく変わります。特に重視したいのは、次の2点です。

  • 寸法の安定性:材料の変形や加工中の荷重、刃先の摩耗を見込み、寸法のばらつきを抑えます。長期間の量産では、必要な公差を維持できる構造と、調整・交換しやすい構造の両方が求められます。
  • 生産性と製造コスト:材料取りや工程配置を見直すことで、歩留まりの改善と加工速度の向上を図ります。毎分ストローク数(SPM)だけでなく、段取りや保全による停止時間も含めて評価することが重要です。

加工速度を上げても、バリや寸法不良による停止が増えれば、生産全体の効率は上がりません。品質と稼働率を両立できる設計が、量産の安定につながります。

プレス金型とは?基本構造と役割

プレス金型の定義と働き

プレス金型は、プレス機に取り付け、主に常温の金属板材を加工するための工具です。プレス機の加圧によって材料をせん断したり、塑性変形させたりすることで、穴抜き、外形抜き、曲げ、成形などを行います。

同じ形状の部品を繰り返し生産するため、加工精度に加えて、耐久性やメンテナンス性も設計上の重要な要件となります。

基本構造を支える3つの機構

金型の構造は製品によって異なりますが、精密プレス金型の基本となるのは、案内、位置決め、加工の3つの機構です。

  • 案内機構:外側のガイドポストやインナーガイドポストが、上下型や各プレートの動きを案内します。型が閉じる際の位置ずれを抑え、パンチとダイの接触や偏摩耗を防ぐ役割を担います。
  • 位置決め機構:ダウエルピンなどを使い、各プレートや部品の組付け位置を決めます。分解・再組立て後も位置関係を再現しやすくするための機構です。
  • 加工機構:パンチ、ダイ、入れ子などが材料に直接作用し、穴抜き、切断、曲げ、成形を行います。刃先形状やクリアランスが、製品の寸法や加工面の状態に影響します。
プレス金型のガイドポスト、位置決めピン、穴抜き部、曲げ部を示す構造図
プレス金型の基本構造

図中の主な構成部品

  1. 外側ガイドポスト
  2. 上下プレート群の位置決めピン(ダウエルピン)
  3. 穴抜き機構
  4. 曲げ機構
  5. インナーガイドポスト

プレス金型の種類:単発型と順送型

プレス金型は、工程のまとめ方や材料の送り方によって分類されます。ここでは、代表的な単発型と順送型の違いを見ていきます。

単発型:1回のストロークで1つの工程を行う

単発型は、外形抜きや曲げなど、1回のストロークで1つの加工工程を行う金型です。比較的シンプルな構造で、初期の金型費用を抑えやすく、試作や少量生産、大型部品の加工などで検討されます。

一方、複数工程が必要な部品では、工程間の搬送や位置決めが増えます。金型費用に加えて、作業工数や工程ごとの品質管理も確認する必要があります。

単発型を用いたプレス加工に使用する小型プレス機
単発型による穴抜きや曲げ加工に使用する小型プレス機。

順送型:複数の工程を1つの金型に組み込む

順送型は、穴抜き、曲げ、成形などの工程を、帯状の材料の送り方向に沿って配置した金型です。材料を一定のピッチで送り、各ステーションで順に加工し、最終工程で製品を切り離します。

自動送りと連続加工に適しており、精密電子部品などの量産で広く用いられます。工程数や構造に応じて初期費用は増えますが、生産数量が多い場合は、作業工数と部品単価を抑えやすくなります。

プレス金型設計から量産までの6つの工程

金型設計では、3Dモデルや図面の形状を、そのまま金型に置き換えるわけではありません。実際の加工順序、材料の動き、検査方法まで検討し、試作で確かめながら量産条件を決めていきます。

工程1:図面確認と加工性の検討(DFM)

まず、製品図面と材料仕様を確認し、要求品質を安定して実現できるかを検討します。DFMでは、特に次の項目を確認します。

  • 公差と狙い寸法:片側公差の場合も、図面の基準寸法だけを狙えばよいとは限りません。例えば、公差が 0/−0.50 mm なら、公差中央の −0.25 mm を初期検討の目安とし、摩耗による寸法変化の方向を考慮して調整します。0.001 mm 級の公差が必要な箇所は、形状、材料、測定方法を含めた個別の検証が必要です。
  • 曲げ半径と穴径:曲げ半径は板厚以上、穴径は板厚より大きい寸法を初期検討の目安とし、割れやパンチ折損のリスクを確認します。ただし、加工限界は材質、硬さ、圧延方向、工具構造によって変わるため、一律の条件にはできません。
  • 材料特性と曲げ展開:引張強さや伸びなどを確認し、スプリングバックの補正量と展開寸法を検討します。中立軸の位置を表すKファクターは、曲げ条件や試作結果も踏まえて設定します。
プレス金型設計に向けた製品図面と加工形状の検討例

当社の開発の進め方は、製品開発の流れ(英語)でもご紹介しています。

工程2:ストリップレイアウトと金型方式の選定

材料の中に製品をどう配置し、どの順序で加工するかを決めます。この段階の判断が、材料歩留まりと量産時の安定性に直結します。

  • 金型方式の選定:例えば5万個を超えるような生産計画では、順送型の採用を比較検討します。ただし、数量だけで決めず、製品形状、継続発注の見込み、金型費用の回収も考慮します。外形抜きと穴抜きを同じステーションで行う複合型も選択肢となり、必要な位置精度や平面度を踏まえて方式を選びます。
  • 材料取りとパイロット位置:歩留まりを高めながら、材料を安定して搬送できる配置を検討します。パイロットピンによる位置決めも組み込み、連続加工中の送り精度を確保します。
  • 空きステーションの確保:必要に応じて予備のステーションを設け、工程の追加や設計変更に対応できる余地を残します。将来の変更内容によっては改造範囲が大きくなるため、想定される変更は早い段階で共有しておくと検討が進めやすくなります。
順送金型の加工順序と材料配置を検討するストリップレイアウト例

工程3:成形解析による事前検証(CAE)

形状や成形の難易度に応じて、CAEによるシミュレーションを活用します。金型を製作する前に材料の変形を確認し、試作時の修正を減らすための工程です。

  • 成形不良の予測:割れ、しわ、局部的な板厚減少が生じやすい箇所を確認します。
  • 加工条件の比較:加圧条件や曲げ半径などを比較し、形状や工程を見直します。解析結果は、実際の材料と試作結果に照らして検証します。

工程4:金型部品の精密加工と熱処理

各部品の形状と役割に合わせて加工方法を選び、必要な精度と耐久性を確保します。

  • 精密加工:CNCフライス加工、形彫り放電加工、ワイヤ放電加工、精密研削などを組み合わせ、金型部品を仕上げます。
  • 熱処理・表面処理:鋼種に応じて真空熱処理などを行い、硬さと靭性のバランスを調整します。必要に応じて窒化処理やコーティングを検討し、パンチなどの耐摩耗性を高めます。

工程5:試作トライと工程能力の確認

初回・再調整後のトライ(T0・T1)で製品を測定し、図面への適合と加工の再現性を確認します。

  • 形状の微調整:実際のスプリングバックや寸法傾向を確認し、曲げ部や成形部を調整します。
  • 工程能力の評価:工程が安定していることを確認したうえで、連続生産したサンプルから工程能力指数(Cpk)などを評価します。Cpkは評価時点の工程能力を示す指標であり、量産開始後も寸法と摩耗の傾向を継続して確認します。

工程6:金型履歴と保全手順の整備

金型は、使い続ければ摩耗します。安定した量産には、設計時から点検箇所と保全方法を決めておくことが欠かせません。

  • 状態の監視:必要に応じて荷重センサーなどを使い、加工荷重の変化から摩耗や異常の兆候を捉えます。
  • 履歴管理と保全基準:ショット数、寸法推移、再研磨、部品交換の履歴を記録します。例えば10万ショットを点検の目安とする場合も、材料、加工速度、金型の構造に合わせて周期を見直します。給油や清掃の頻度も、使用条件に応じて設定します。
安定したプレス加工に向けた明將の金型点検とメンテナンス
明將では、金型の定期的な点検・保全を通じて、生産中の不具合の予防に取り組んでいます。

金型材料の選び方と熱処理

金型材料は、硬ければよいというものではありません。摩耗に耐える硬さ、欠けや割れを防ぐ靭性、荷重を受ける部分の強度を、部品ごとに検討します。以下は材料と硬さの組合せの一例です。

ダイセット:金型全体を支える土台

ダイセットには、S50Cなどの機械構造用炭素鋼が用いられます。焼入れを行わずに使用する設計例もあります。金型全体を支える部品のため、材料の選定に加えて、板厚、支持位置、取付け面の精度を検討し、加工荷重に対して十分な剛性を確保します。

支持プレート:圧痕やへたりを抑える

バックアッププレートなど、局部的に大きな圧縮荷重を受ける部品では、冷間ダイス鋼のSKD11を使用し、58〜60 HRC程度に調整する設計例があります。荷重の集中による圧痕やへたりを抑えるとともに、プレートの厚さや支持構造も確認します。

ストリッパー・ダイプレート:摩耗と欠損への対策

ストリッパーやダイプレートでは、繰り返し荷重と摩耗の両方を考慮します。使用材料の一つであるSLDは、SKD11系の冷間ダイス鋼です。58〜60 HRC程度の設計例がありますが、薄肉部や複雑な形状では、硬さだけで判断せず、欠けや割れの生じにくさも確認します。

パンチ・入れ子:刃先の耐久性を確保する

パンチや入れ子には、高速度工具鋼のSKH51(旧称SKH9)などを使用します。耐摩耗性と靭性の両方が必要な箇所で検討される材料です。60〜62 HRC程度に設定する例もありますが、狙う硬さは工具の形状、被加工材、熱処理条件によって決めます。高速加工では摩擦による発熱も考慮し、刃先の状態を管理します。

金型部品ごとの材料・硬さ・選定ポイント
金型部品材料例硬さの例選定・設計のポイント
ダイセットS50C焼入れなしの例加工荷重を支える強度と剛性、取付け面の精度を確保する。
支持プレートSKD1158〜60 HRC荷重が集中する箇所の圧痕やへたりを抑える。
ストリッパー・ダイプレートSLD(SKD11系)58〜60 HRC耐摩耗性と靭性のバランスを確認し、欠けや割れに配慮する。
パンチ・入れ子SKH51(旧称SKH9)60〜62 HRC刃先の摩耗、折損、加工中の発熱を考慮する。

表中の材料と硬さは設計例です。実際の仕様は、被加工材、板厚、金型形状、荷重、必要寿命に応じて決定します。

用途に応じて材料と加工方法を選定したプレス金型の各プレート
プレス金型は複数のプレートで構成され、それぞれの役割に応じて材料と加工方法を選びます。

ばねの選定と荷重・ストロークの設計

板厚0.05〜5.0 mm程度の部品を扱う精密プレス加工でも、ばねの役割は部品を元の位置に戻すことだけではありません。材料を押さえ、加工後にパンチから材料を引き抜くストリッピングにも関わります。必要な力と動作量を整理してから選定します。

コイルばねと窒素ガススプリングの使い分け

  • 一般的な用途:金型用コイルばねを用い、必要荷重、たわみ量、繰り返し使用時の寿命を確認します。選定や交換のしやすさも、量産時の扱いやすさにつながります。
  • 大きな力や限られた設置スペースへの対応:厚板加工などで大きな力が必要な場合や、設置スペースに制約がある場合には、窒素ガススプリングも選択肢となります。荷重特性と取付け条件を確認して採用を判断します。
プレス金型の材料押さえとストリッピングに使用するばねの例

ストロークと荷重バランスの確認

  • 使用ストローク:初期たわみと作動中のたわみを合計し、メーカーが定める許容たわみ量の範囲内に収めます。密着高さまで圧縮しないことに加え、繰り返し使用時の寿命に余裕を持たせます。
  • 必要荷重:抜き加工のストリッピング力を、せん断力の10〜20%程度として初期検討する例があります。ただし、この比率をすべての金型に当てはめることはできません。材料押さえに必要な力も含め、材質、板厚、加工形状、クリアランスに合わせて確認します。
    • 力が不足すると、材料の浮きやずれ、ストリッピング不良が生じ、寸法が安定しなくなる場合があります。
    • 力が過大になると、金型や製品への負荷が増え、部品のたわみや曲げ角度への影響につながる場合があります。

疲労を見込んだ点検と予防交換

ばねは繰り返し使用によって疲労する消耗部品です。例えば10万ショットを点検の区切りとする場合も、たわみ率や使用速度、メーカーの寿命データを踏まえて周期を設定します。自由長の変化、荷重低下、損傷などを確認し、破損する前に交換できる管理が必要です。

よくあるご質問

金型のメンテナンス基準は、どのように決めますか?

ショット数による定期点検と、生産中の品質変化の両方から判断します。一定の回数に達するまで使い続けるのではなく、寸法やバリの変化に応じて点検・調整します。

  1. 定期点検:使用実績に基づいて点検間隔を決め、摩耗、緩み、ばねの状態などを確認します。10万ショットごとの点検は設定例の一つであり、共通の業界基準ではありません。
  2. 工程内検査:図面公差の内側に管理限界を設け、寸法がその値に近づいた段階で原因を確認します。例えば許容差が±0.05 mmの寸法に対し、±0.03 mmを警戒値として検討する方法があります。警戒値と再研磨・調整の判断は、測定の信頼性と工程のばらつきを踏まえて決めます。

順送型と単発型は、どう選べばよいですか?

金型費用と部品単価を分けて考えるだけでなく、予定数量、継続生産の期間、設計変更の可能性を含めた総費用で比較します。

  • 順送型:初期の金型費用は高くなりやすいものの、連続加工によって量産時の作業工数と部品単価を抑えやすい方式です。
  • 単発型:初期費用を抑えやすく、試作や少量生産に適しています。複数工程がある場合は、搬送や位置決めの工数も見込んで比較します。

まとめ:量産を見据えたプレス金型設計

プレス金型設計では、精度、寿命、コストのバランスを、実際の生産条件に合わせて決めていきます。図面検討、工程配置、材料と熱処理の選定、試作での調整、量産後の保全までを一続きで考えることが、安定した生産につながります。

明將は、製品の加工性検討から金型の設計・製作、試作トライ、量産まで対応しています。T0・T1段階の測定結果をもとに調整を重ね、要求仕様への適合を確認します。50〜500個程度の試作・小ロット生産についても、部品形状や材料、必要工程に応じて対応方法をご提案します。

自動車用モジュールをはじめ、精密金属部品のプレス加工をご検討の際は、金型製造設備をご覧ください。図面、材質、板厚、予定数量、特に管理したい寸法が分かれば、金型方式や加工上の課題を具体的に検討できます。ご相談は、お問い合わせフォームからお寄せください。