電池ホルダーの接触不良はなぜ起こる?ばね端子の公差と改善事例

コイン形電池と金属製ばね端子の組み合わせ例

寸法検査では合格しているのに、電池を組み込むと通電が不安定になる。部品を測り直しても、数値は図面の公差内に収まっている。電池ホルダーの接触不良には、単品の寸法確認だけでは原因が見えてこないものがあります。

電池ホルダーに使うばね端子は、組立後に適切な位置と力で電池に接触する必要があります。そのため、電池、ホルダー、端子を組み合わせたときの公差累積や、成形後のスプリングバック、材料の状態まで確認することが大切です。

この記事では、明將がスイスのお客様と取り組んだコールドチェーン監視装置の改善事例を紹介します。図面、実際の組み立て、プレス加工の条件を照らし合わせ、どのように接触不良の原因と対策を検討したのかを解説します。

電池ホルダーの接触不良で確認したい2つのポイント

接触不良には、接触面の汚れ、めっきの状態、組立方法、端子に加わる力など、さまざまな要因が関係します。本記事では、単品検査で見落としやすい「公差と接触位置の関係」と「加工後の寸法安定性」に焦点を当てます。

1.公差累積とスプリングバック

ばね端子の設計では、寸法がどの程度ばらついてよいかに加え、大きい側・小さい側へ変化したときに、接触点がどちらへ動くかを確認します。電池、ホルダー、端子の寸法がそれぞれ許容限界に近づくと、基準寸法で設計したときとは接触状態が変わることがあります。

  • 関連する寸法を組み合わせて評価する:実際の組立基準に沿って、最も不利になる公差の組み合わせを確認します。接触位置、隙間、端子のたわみ量が、必要な機能を満たすかを検討します。
  • 曲げ加工後の戻りを確認する:金属は成形時の荷重を取り除くと弾性回復し、角度や位置が変化します。このスプリングバックは、合金の種類、硬さ、板厚、曲げ条件などで変わるため、試作や試し打ちの結果を設計と金型へ反映します。
  • 組立状態で接触力を確認する:成形後のスプリングバックと、使用時にばねとしてたわむ動きは、分けて考える必要があります。自由状態の寸法に加え、実際の組立変位で必要な接触力が得られるかを確認します。

2.残留応力と寸法安定性

金属材料には、圧延、切断、プレス加工、曲げ加工を経て、不均一な残留応力が生じることがあります。材料の状態や温度、時間などの条件によって応力が再分布し、形状の変化を伴う場合があるため、加工直後の寸法だけで判断しないことが重要です。

接触位置の余裕が小さい端子では、わずかな変位も機能に影響します。加工直後、保管後、お客様の組立時の測定結果を比較し、梱包による支持状態、搬送中の荷重、測定方法の違いも含めて、寸法差が生じた要因を切り分けます。

改善事例:スイスのコールドチェーン監視装置

コイン形電池に接触する金属端子の製品例

問題が現れたのは、お客様の組立工程だった

明將は、スイスの医療関連機器メーカーから、コールドチェーン監視装置の電池接触について相談を受けました。医薬品やワクチンの輸送状況を監視する装置では、輸送中も安定した電源供給を維持する必要があります。

量産部品をスイスへ出荷した後、お客様の組立ラインで電池とばね端子の接触不良が報告され、装置の動作に影響が出ていました。一方、明將の出荷検査記録では、対象寸法は当時の図面要求を満たしていました。メールやオンライン会議で確認を重ねても、問題がどの段階で起きているのかを絞り込めない状況でした。

組立後の接触位置と、微小な形状変化を確認

そこで、明將の技術者がスイスの生産現場を訪問し、お客様と実物の組み合わせや装着動作を確認しました。図面の寸法を、組み立てたときの位置関係に置き換えて見ることで、次の点が明らかになりました。

  • 寸法が上限に近いと、接触位置が不利になる:元の図面では、重要な寸法が1.45 ±0.05 mmと指定されており、許容範囲は1.40~1.50 mmでした。この事例の図面方向では、寸法が上限に近づくと、組立後の端子脚部が右側へ寄り、想定した電池の接触面から外れるおそれがありました。
  • 微小な形状変化が、接触の余裕をさらに減らす:本件では、約0.01~0.03 mmの形状変化も検討対象となり、圧延やプレス加工後の残留応力を分析に含めました。もともとの接触余裕が小さい構造では、このような変化が接触の不安定さにつながります。

上記の変化量は、この事例に関する数値です。ほかの端子への影響は、構造、材料、使用条件と実際の測定結果に基づいて評価します。

変更前の端子断面図。重要寸法の公差は1.45プラスマイナス0.05ミリメートル
変更前:重要寸法に両側公差を設定。
変更後の組立断面図。基準寸法1.45ミリメートルに対し、上側許容差0、下側許容差マイナス0.10ミリメートル
変更後:組立関係に合わせ、マイナス側の片側公差へ変更。

改善策1:接触に有利な側へ、寸法の許容範囲を移す

組立状態を確認したうえで、明將はお客様と、この寸法を基準寸法1.45 mm、上側許容差0、下側許容差−0.10 mmへ変更しました。あわせてプレス金型を修正し、新しい許容範囲に合わせて製造条件を調整しました。

本事例における重要寸法の公差変更
比較項目変更前変更後
公差の指定1.45 ±0.05 mm基準寸法1.45 mm
上側 0/下側 −0.10 mm
寸法の下限1.40 mm1.35 mm
寸法の上限1.50 mm1.45 mm
公差幅0.10 mm0.10 mm

この変更では、公差幅の0.10 mmを保ちながら、許容範囲全体を小さい寸法側へ0.05 mm移しています。この構造で必要な接触位置を確保しやすくするための見直しです。

公差の方向は、部品ごとの組立関係に合わせて決める必要があります。図面と金型を変更した後も、実際の組立品でたわみ量、接触力、導通状態を確認します。

改善策2:材料の状態と応力低減処理を見直す

材料側では、プレス加工前の原材料に張力焼鈍(テンションアニーリング)を加え、材料に残る応力の低減を図りました。こうした処理は、合金の種類、供給材の調質や硬さ、成形条件とあわせて検討し、処理後も必要な材料特性が得られるかを確認します。

原材料を前処理しても、その後のプレス加工や曲げ加工で新たな残留応力が生じる可能性はあります。そのため、完成品の寸法安定性と接触機能は別途評価する必要があります。処理方法、温度、時間、工程内で実施する段階は、材料と試験結果に応じて決め、硬さやばね特性、接触力への影響も確認します。

組立現場での確認が、原因の特定につながる理由

3Dモデル、AIを活用した解析、オンライン会議は、技術的な情報を共有するうえで役立ちます。ただし、今回のような接触不良では、実際の組立動作や部品に加わる力、測定条件も関係します。現場で実物を確認することで、双方のデータを同じ条件にそろえて検討しやすくなります。

  • 測定基準をそろえる:基準位置、治具、測定時の荷重を確認します。自由状態の寸法と、組立後に力が加わった状態の寸法を、そのまま比較しないようにします。
  • 装着から接触までの動きを確認する:電池をどのように入れ、端子のどこが押され、接触点がどこへ移るのかを観察します。そのうえで、測定と導通試験を組み合わせて原因を検証します。
  • 実物を見ながら修正方針を決める:設計、製造、組立担当者が同じ部品を確認し、寸法、金型、製造工程のどこを見直すかを具体的に話し合えます。

検査記録と実際の機能が一致しないときは、「どう組み立てられ、どこに力が加わり、どの位置で接触しているか」に立ち返ることが有効です。現場観察と条件をそろえた測定が、改善策を判断する根拠になります。

まとめ:図面寸法と実際の接触機能をつなぐ

精密プレス部品は、図面要求を満たしたうえで、実際の組立状態でも必要な機能を果たすことが求められます。電池のばね端子では、公差累積、スプリングバック、材料の硬さ、残留応力を開発段階からあわせて検討すると、量産時の条件を使用環境に近づけやすくなります。

明將は、電池端子やばね接点部品の精密プレス加工に対応しています。金型を社内で製作できる体制を活かし、部品の寸法・構造の調整に加え、材料選定、硬さ、後加工について製造面から提案します。

品質管理は、受入検査、工程内検査、出荷検査を通じて行い、IATF 16949およびISO 13485の品質マネジメントシステム認証を取得しています。個別製品の接触力、導通、耐久性については、お客様と確認した仕様に基づいて評価内容を検討します。

関連製品については、コイン電池ホルダーの製品例もご覧ください。

精密プレス加工で製造した各種コイン電池保持部品とばね端子

図面どおりの寸法なのに、組立後の接触が安定しない。そのような課題がありましたら、明將へご相談ください。部品図面、組立状態、発生している症状を共有いただき、接触位置、材料、製造工程から改善の方向を一緒に検討します。

 2026-08-12